性犯罪により生まれた少女と、その家族の絶望と再生を描いた秀作が誕生した。ロッテルダム国際映画祭2011招待作品として出品。「恐ろしいほどダークな作風の傑作。驚くほど破壊的で残酷なストーリーだが、同時に見事なまでによく出来ていて非常に見応えがある」(Screen International) と海外メディアの高い評価を受けた問題作だ。
レイプで誕生した娘、その母や祖父との地を這うような生活。また、母を犯した憎むべき犯人が父でもあるという現実。様々な葛藤を抱えた少女が、必死で生き抜こうともがきながら、大人への階段を上がっていく姿が詩的に描かれている。そのひたむきな少女の姿に、魂を揺さぶられる。
監督・脚本には、TVドキュメンタリー作品を多く撮り続け、常に人間と対峙してきた異才・坂口香津美。劇映画は、ひきこもりの青年の自立を描いた『青の塔』(2000年)、加害少年の罪のゆくえを見つめた『カタルシス』(2003年)に続く、第三作目となる。
主演の少女は、本作が映画デビューとなる新人の平野茉莉子。難役であり、美しい裸体をもさらした演技は、無垢で透明感が漂う。また、全編に流れるピアノは、15歳の小林愛実。小澤征爾や佐渡裕といった世界的な音楽家たちが絶賛する、今最も注目のピアニスト。その音色は、過酷な宿命を背負った主人公に寄り添う、まるで優しいレクイエムのようだ。女優としても、レイプ犯の娘役(主人公とは腹違いの妹役)を繊細かつ堂々と演じている。

“ネムリユスリカ”は、アフリカの砂漠に生息する昆虫。乾季になると生物は死滅するが、その幼虫は干からびた大地で生き延び、雨季に蘇生する驚異の生命力を持つ。いかなる絶望にも生き延びよ・・・とのメッセージがタイトルには込められている。

2011年11月シアター・イメージフォーラム ほかにて レイトロードショー

関連作品

http://data.cinematopics.com/?p=49633

執筆者

Yasuhiro Togawa