今、最も大人の魅力を感じさせる男、ジョージ・クルーニーを主演に迎え、映画監督デビュー作となった前作「コントロール」で、カンヌ・カメラドール特別賞を受賞した世界的フォトグラファーとしても有名なアントン・コービン監督が贈る全米No.1ヒット作品『ラスト・ターゲット』が、7月2日(土)より公開されます。

この度、小説推理新人賞、吉川英治文学新人賞、直木賞、柴田錬三郎賞など、日本ミステリー文学大賞など数々の受を受賞している日本のハードボイルド作家の巨匠、大沢在昌氏に『ラスト・ターゲット』をご覧頂き、絶賛コメントを頂きました。

■大沢在昌氏コメント

 殺人を生業とする者の心が豊かである筈がない。
おそらくは空虚で、あるとしても怒りや恐怖でしかない。
 白い雪原で始まる序章には、ジョージ・クルーニーが
演じる主人公の内面が描かれている。
雪におおわれ隠されていた恐怖と怒りが、
一発の銃声とともに露わになる。

 アクションよりも静謐が心に残る映画だ。
 イタリアの田舎町で平和を求めているかのように
見える主人公だが、観客は、それが決して
与えられないことを映像から予感する。
 静謐と暴力は、実は相性がよい。
音楽すら最小限に抑えられた映像は、
破局へと向かう内圧をじょじょに高めていく。

 殺し屋が娼婦と恋をするのも必然だ。
体がつながることから始まった関係は、
時間をさかのぼるようにぎこちない恋にかわっていく。
「いつものところ? 忘れた」
 と答える娼婦は、空虚な心しかもたずに
生きてきた殺し屋には愛おしい。

 明るく積極的なアメリカ人ヒーローの役が多かった
ジョージ・クルーニーが、孤独を恐れる寡黙な中年男を
淡々と演じている。原題が「アメリカ人」というのも、
そっけなく、しかしぴったりだ。
 静けさと空虚のくりかえしの果てに、
一瞬だけ夢見た豊かな人生に彼は手をのばす。

 観終えて心に残るのは、鮮やかな肉体の動きではない。
むしろたどたどしいほどに、孤独から逃れようと
もがいた男と、彼を破局へと導く女の、
美しくも哀しい姿だ。

※公式サイトにコメント掲載中です。
http://last-target.info/

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執筆者

Yasuhiro Togawa