今年の1月17日にNHKで放送され、視聴者の大反響を巻き起こした“阪神・淡路大震災15年特別企画”のドラマ『その街のこども』。第36回放送文化基金賞を受賞し、さらなる反響を受けて、未公開シーンを加え再編集された劇場版が11月20日より公開されるという異例の展開となった。

TV放送時は未見だったこの作品。震災を扱ったテーマなだけに、向き合うには小さな気合が必要だったのだが、ドラマは意外にもリアルな下世話さをたたえて始まった。

15年ぶりの新神戸。出張途中の新幹線を不意に途中下車する男。同じく下車した日本人離れした足の長い女の「顔見てー!」という先輩の好奇心を満たすため、なんとなく女の後を追うことに。先入観を小気味よく裏切る展開と、即興劇に近い印象すら受ける自然な無駄の多い会話に、変な身構えも緩んでいく。

1月17日の早朝に開かれる『追悼のつどい』に参加するために十三年ぶりに神戸に来たという女と行動を共にすることになる男。他人以上の距離で復興された三宮の街を歩く二人の姿と、居場所に自信がない子供のように不安気な女の顔が印象深い。

居酒屋で女が語る、震災の後「2000円の焼きイモ屋がやって来た」というエピソードは、その時感じたやりきれなさを共有したい女と、全てを経済のバランスで割り切る男の間に亀裂を生む。森山未來の実体験だというこのエピソードは、ニュースの外で日常が続く現実と相容れない立場の軋轢を再現する。
そんな二人が1月16日の真夜中の神戸の街を、三宮から御影、折り返して追悼式典が行われる三宮の東遊園地を目指し、ひたすら歩くことになる。アドリブも交え洪水のように溢れる他愛のない会話。その外側に蓄積される消化しきれない想いが、それぞれが封印してきた場所に喚起され吐き出されていく。

ギリギリのテンションで“街に帰って来たこどもたち”を体現した主演は、3年連続で震災特別企画に出演を果たした森山未來と、森山と同じく子供の頃、震災を体験した佐藤江梨子。脚本は『ノーボーイズ,ノークライ』、ドラマ『火の魚』の渡辺あや。監督は、『クライマーズ・ハイ』『ハゲタカ』など社会派ドラマの名手、井上剛。キャスト、スタッフが一体になって震災という“重過ぎる謎”に取り組んでいる。

『その街のこども』…この深い情感と決意に溢れたタイトル。通り過ぎるニュースとしての「1月17日」ではなく、体験としての「1月17日以後」に、それぞれの歩く速さで向き合おうとした人々を描いた誠実な物語だ。

●公開情報
11月20日からシネ・リーブル神戸、シネ・リーブル梅田、
12月4日から京都シネマ にて公開

(Text:デューイ松田)

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執筆者

Yasuhiro Togawa