『手向かえば、妹でも斬らねばならぬ』
侍社会の掟が、兄弟のように育った男女三人を、過酷な運命の淵へと追いやっていく……。
                   
 国民的作家・藤沢周平。数々の書籍がそれぞれベスト&ロングセラーであり、その時代小説に描かれる下級武士ら主だった主人公である庶民の心は、現在にもつながる精神性をもっている。2008年の「山桜」、2010年の「花のあと」に続き、またひとつ彼が遺した珠玉の短編小説が、映画に生まれ変わる。
今回、原作に選ばれたのは「小川の辺」。(所収の「海坂藩大全」「闇の穴」の合計販売数は70万部を超える*確認中です)合計300を超える藤沢文学の短編小説 から篠原監督ら、この作品の製作陣が切望した小説である。
藩から上意討ちの命を受けた戌井朔之助。狙う相手・佐久間森衛の妻が妹・田鶴だったことから、肉親の情愛と藩命の間で苦悩する姿を描いたもの。田鶴自身が剣術遣いでもあり、もし刃向かえば彼は妹を斬らなくてはいけない。その朔之助が佐久間を探す道中に付き従うのは、戌井家に仕える若党の新蔵。彼は朔之助や田鶴とは兄弟同然に育った仲で、田鶴には主従関係以上の思いを抱いていた。妹を思う朔之助と、愛する人を死なせたくない新蔵。二人の男の心情は、田鶴との再会によって臨界点を迎える。
 侍の掟に従う者の苦悩、身分違いの恋に身悶えする若者、その二人の男の前に凛と立つ一人の女性。三人の運命がひとつに結ばれていく様を、「山桜」で男女の秘めたる想いを見事に描いた篠原哲雄監督が鮮烈に映し出す。
主演は東山紀之。運命を受け入れながら妹への優しさを失わない主人公の戌井朔之助を演じ、「山桜」に続いて篠原監督と再びタッグを組む。クライマックスの(には?)朔之助と佐久間との命を賭けた一騎討ちは、緊迫感漂う彼の立ち回りも大きな見せ場になっている。腹筋1日1,000回、1ヶ月間のランニング距離100kmを1日も欠かしたことがないという東山の肉体は、本作のために特別な鍛錬を積むことなく殺陣、時代劇の所作もこなしていけると、打合せ及び殺陣指導を経た監督及び製作陣は絶賛する。
若党・新蔵を演じるのは2010年も「シュアリー・サムディー」を始め、多くの作品で印象的な演技を披露している勝地涼。他にも朔之助と剣の腕を認め合ったライバル、佐久間森衛を片岡愛之助が演じるのを始め、尾野真千子、松原智恵子、笹野高史、西岡?馬、藤竜也など実力派俳優が顔を揃えている。
 これは前2作と同様、山形県庄内地方をイメージした“海坂藩”が舞台の作品だが、朔之助と新蔵が討手として田鶴たちを探す道中も多く描かれる。そこで今回は日本の原風景が残る山形県の各所でロケを敢行。その美しい自然描写も大きな見どころだ。2011年初夏、現代人にも通じる兄妹の情愛と男女の恋情が奏でる、新たなる藤沢時代劇の世界がスクリーンに誕生する。

東山紀之 コメント:
魂を揺さぶられる作品にめぐりあえました。岐路に立たされた人はどんな選択を迫られるのか。 絆、葛藤、そして本当の優しさとは何か。藤沢文学はいつも考えさせてくれます。そんな主人公を 精一杯演じさせて頂きます。

篠原哲雄監督 コメント:
「山桜」でご一緒した東山さんは、淡々とした表情の中に、物事に動じない凄みのようなものを感じさせてくれました。今回も、武士の抑制された心持ちを旅の道中で描きながら、徐々にその目的に向かって心のあり方が変わっていくさまを描くことになると思います。前作を上回る立ち回り、そして役づくりにおいても人間的葛藤を沢山見せていただくことになるかと思います。躍動感のある時代劇活劇、人間劇を共につくりあげていきたいと思っています。

2011年初夏ロードショー     

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執筆者

Yasuhiro TogawaYasuhiro TogawaYasuhiro Togawa