中国アニメーション映画の傑作が、まとめてやって来るという。私に懐かしい作品ばかりである。まるで大切な古い友人が何年かぶりに訪ねて来てくれるようで、嬉しくて仕方がない。
 中国のアニメーションの歴史は、1926年、万兄弟すなわち籟鳴、古蟾、(籟鳴と双子)、超塵、滌寰によって始
まった。以後万兄弟は、アニメーションの魅力にとりつかれたように、数多くの短編作品を制作する。その中には、中国初のトーキーアニメーションも含まれている。また、1941年には、アジアで最初の長編アニメーション『鉄扇工主』も彼等の手により完成した。
 この作品は、翌年戦時下の日本でも公開され、少年時代の手塚治虫や、後に中国や日本両国にアニメーション界に大きな足跡を残した持永只仁に衝撃を与え、その後の彼等の人生行路に少なからず影響をおよぼすことになる。
 戦争の激化にともない、万兄弟のアニメーション制作は中断を余儀なくされた。その結果兄弟は、各々の活路を求めて別れることになる。
 第二次世界大戦後の中国は、国内の混乱を経て中華人民共和国となった。そして中国のアニメーション界も、長い空白の時をこえて再び始動する。中心となったのは、アニメーション制作に燃える漫画家特偉と、戦争末期中国に渡って残留した持永只仁等であった。それに呼応するように万兄弟も合流して、1957年国立アニメーションスタジオ「上海美術電影制片厰(上海映画制作製作所)」が発足する。これにより中国のアニメーション制作の基盤が確立する。途中1966年に始まる文化大革命の嵐による空白を乗り越えて、最盛期には500人を有する中国最大のアニメーションスタジオに発展し、特偉や持永等の指導のもと70年代後半からは、世界に通用する多くの優れたアニメーション作品、そして作家を輩出するのであった。
 今回公開される作品は、長編、短編7作品で、いずれも中国国内はいうに及ばず、世界中で評価を得た名作ばかりである。
 『ナーザの大暴れ』は、中国を代表するアニメーションである。1980年の日本公開時、その大胆な展開と、京劇の躍動感そのままにシネマスコープの画面を駆け巡る主人公ナーザの勇姿を、アニメーションファンのみならず、宮崎駿等、多くのアニメーション関係者が絶賛した。中国建国30周年を記念して制作されたこの動画枚数5万枚の大作の監督は、ベテラン王樹忱、厳定憲、徐景達(阿達)の3人。当時中国アニメーション界の最強トリオで、この作品にかけるスタジオの意気込みを感じさせる見事な出来映えであった。
 『不射之射』は、川本喜八郎監督が、中国で制作したいと熱望した作品であり、川本の願いを中国側が友情で受け入れ、実現した作品である。川本は、単身上海にスタジオに渡り、中国の人形アニメーターを育成しながら制作にあたった。それまでの川本作品に見るストイックな世界が消え、上品でユーモアが漂う作品となった。この作品は1988年、中国で初めて開催された第一回上海国際アニメーション映画祭で、審査員特別賞を受賞した。プレゼンターは、病をおして訪中した手塚治虫。手塚にとっては最後の国際映画祭への参加であった。
 『猿と満月』は、中国が誇る剪紙(切紙)アニメーションで、切り紙の猿達のかわいらしさが際立ち、その繊細な表現に思わず目を奪われてしまいそうになる味わい深い作品である。監督は、ベテランの周克勤。
 『蝴蝶の泉』は、洗練されたモダンなキャラクター造型、そしておさえた色彩設計が、この悲恋物語を一層華麗にしている。何よりも光と影のコントラストに感心した。監督は『ナーザの大暴れ』の徐景達と常光希。常光希は、中国アニメーション界がその威信をかけて4年の歳月と1200万元の費用を使い1999年に完成した超大作アニメーション『宝蓮燈』の監督その人である。
 今回のプログラムで注目したいのは、中国のお家芸である水墨画アニメーションの傑作が、3本も含まれていることだ。『牧笛』、『琴と少年』の監督は、中国アニメーションのパイオニア、特偉(『琴と少年』は閣善春、馬克宜と共同監督)。『鈴鹿』は、唐澄と鄥強の共同監督。いずれも世界アニメーション史上に輝く宝石のような作品である。空間を生かした省略の美しさ、水墨画の持つ独特の様式美に加えて、作品に込めた感情が見る者の心にしみ入って来るのだ。その凄さと言ったらない。こればっかりは見てもらわなければわからないだろう。
 これだけのバリエーションがあって、しかし奥の深い中国アニメーションの世界!CGでは到底表現できまい!!

片山雅博 (日本アニメーション協会理事 多摩美術大学講師)

プログラムA  本邦映画館初公開!!
『おたまじゃくしが母さんを探す』 原題:小蝌蚪找媽媽
第1回百花賞第1位/’64カンヌ国際アニメーション映画祭栄誉賞
’62アヌシー国際アニメーション映画祭児童映画賞/’78ザブレグ国際アニメーションフェスティバル第1位

『三人の和尚』 原題:三個和尚
第1回中国金鶏賞受賞/’80年文化部優秀アニメーション賞

『鴫(しぎ)と烏貝』 原題:鷸蚌相争
’84年中国金鶏賞同アニメーション映画賞受賞/第34回ベルリン国際映画祭短編部門銀熊賞
カナダ国際アニメーション映画祭特別賞/’84ザブレグ国際アニメーション映画祭特別賞

『火童』 原題:火童
’85年第1回アニメーションフェスティバル広島大会30分部門第1位/’84年文化部優秀アニメーション映画賞

『鹿を救った少年』 原題:夾子救鹿
’87年第5回インド国際児童映画際金の象賞/’85広播電影電視部優秀アニメーション映画賞
第2回児童映画童牛賞

プログラムB  
『ナーザの大暴れ』 原題:?陀鬧海
’80年カンヌ国際映画祭正式出品/’83年マニラ国際映画祭特別賞

『猿と満月』 原題:猴子?月
’88年第4回カナダアニメーション映画祭児童映画部門1等賞

『鹿鈴(ろくれい)』 原題:鹿鈴
’83年第3回中国金鶏奨最優秀美術映画賞/’83年モスクワ国際映画祭特別賞

プログラムC  
『不射之射』 原題:不射之射
’88年上海国際アニメーション映画祭審査員特別賞/’88年上海美術映画製作所小百花賞最優秀映画賞
’89年第1回全国映画・テレビアニメーション番組展示放映会名誉賞

『ぼく牧てき笛』 原題:牧笛
’79年デンマークオデッサ国際童話映画祭金賞/’80年アンデルセン童話賞

『蝴蝶の泉』 原題:蝴蝶泉

『琴と少年』 原題:山水情
’88年第1回上海国際アニメーション映画祭大賞/’89年中国金鶏奨最優秀美術作品賞
’89年第6回ブルガリアバルナ国際アニメーション映画祭優秀作品賞

配給:ワコー+グアパ・グアポ
宣伝:グアパ・グアポ

5/1(土)〜22(金)新宿K’s cinemaにて
★上海万博開幕記念ロードショー!★

執筆者

Yasuhiro Togawa