『トランスフォーマー』シリーズ、マイケル・ベイが製作を手がけ、チャン・ツィイーが今まで見たことのない美しき殺人鬼を演じるサディスティック・サスペンス・スリラー『ホースメン』が10月24日より公開中!
今、精神科医からみた映画、音楽評論などを雑誌、テレビ、ラジオなどで展開し、幅広く活躍中の名越康文さんが作品を語ってくれました。

チャン・ツィイーは女性版レクター博士になりえるかもしれません「羊たちの沈黙」「セブン」の系譜に位置するサスペンス・スリラーです。10人中8人はホラーにしか見えないかもしれないけど(笑い)、「セブン」よりも一条の光があるし、「親子」という裏テーマもある。意外と骨太な映画です。
 妻に先立たれ二人の息子を育てる刑事(デニス・クエイド)のもとに、新約聖書「ヨハネの黙示録」を再現している連続殺人事件が持ち込まれます。やがて第二の被害者の養女(チャン・ツィイー)が犯人だと名乗り出ます。が、新たな殺人が起こってしまい——という話です。
 精神科医として見ると、正直チャン・ツィイー演じるキャラクターはちょっとステレオタイプかなと思ったんです。犠牲者であると同時に加害者でもあり得るという、人間の持つ二面性が典型的に現れた例ですから。ただそれは彼女の生い立ちや現在に至る過程が、医者から見てもリアルだということでもある。彼女と刑事の問答は「羊たちの沈黙」のレクター博士を思い起こさせましたね。ラストで彼女が刑事にある決定的なヒントを与え、その後ろ姿をじっと見守るシーンが印象的でした。彼女は女性版レクターになりえるかもしれない。彼女を主人公に続編を作れたらいいですね。
 また本作は親に虐げられた子どもたちから大人に対するテロリズムとも取れます。ただ子どもとは幼い子とは限らない。「大人」とは不条理を許容しつつ「自分も社会の一部なのだ」と自覚できる人のこと。30代でも「自分は社会に虐げられている」「悪いのは社会のせいだ」という考えに固執する人は「子ども」性を抱えていることがある。他人へ異常な怒りを向ける人も多い昨今ですから、非常に時代に即した作品であると感じました。(聞き手・中村千晶)

名越康文

10月24日より新宿バルト9、渋谷シアターTSUTAYA他全国ロードショー公開中!

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執筆者

Yasuhiro Togawa