アスミック・エース エンタテインメント配給『空気人形』は、昨年08年に公開し国内外で高い評価を得ている『歩いても 歩いても』で、第51回ブルーリボン賞監督賞をはじめ各賞に輝いた是枝裕和監督の最新作です。長編2作目の『ワンダフルライフ』以降、オリジナルストーリーだけを発表してきた是枝監督が、この原作だけは例外と、業田良家の傑作短編集「ゴーダ哲学堂 空気人形」に出会った2000年から映画化に向けた準備を開始し、出会いから9年、満を持しての映画化となります。

主人公・空気人形を演じるのは、『リンダ リンダ リンダ』で女子高生バンドのボーカル役を好演する等、国境を越えて活躍中の韓国の人気実力派女優 ペ・ドゥナ。心を持ってしまう人形という難しい役どころを、チャーミングに繊細に演じ、新境地を切り開きます。さらには撮影を、候孝賢や王家衛の作品で独特の世界観を映し出してきた国際派カメラマン リー・ピンビンが担当し、誰も見たことのない美しく艶やかな東京を浮かび上がらせるなど、アジアの才能を結集したプロジェクトです。

昨年、12月17日にクランクイン、1月末にクランクアップし、初夏に完成予定。
日本からアジアへ、アジアから世界へと羽ばたく、映画『空気人形』。”新しい愛の形”を描くファンタジック・ラブストーリーの誕生を、ぜひご期待ください!

●脚本・編集・監督:是枝裕和コメント
出会いは9年前。
業田良家さんの「ゴーダ哲学堂 空気人形」は単行本が2000年2月に小学館から出版されている。このマンガに出会った時の感動は今でもはっきり覚えている。好きな男の息で満たされた空気人形が夜の街を一人歩きながら呟く。
「私の空っぽの体の中は、彼の息で満たされている。もう二度と自分でふくらませることはないかもしれない。それがたとえ、死ぬことであっても…」
死を覚悟しながらも一回限りの生を生きる決意をした人形が「哀しくて嬉しい…」と呟く時、そこには紛れもなく私たちの人生が重ね合わされて聞こえてきた。「哀しくて嬉しい」複雑なその人生の真実が…。
映画はオリジナルストーリーだけでと決めていたのであるが、この作品は例外的にすぐに映画化に向けた準備を開始し、01年の冬には企画書とプロットを既に書き上げていた。そのスタートから8年、今回満を持しての映画化である。

関係の中の”私”
 生命は
 その中に欠如を抱き
 それを他者から満たしてもらうのだ 〜吉野弘「生命は」より〜

これは「祝婚歌」等で有名な吉野弘の詩(一部)である。今回の「空気人形」が描こうとしている世界観、人間観を一言で表しているので引用した。(映画の中でもこの詩は象徴的に使用している) 映画は「空気人形」という存在を通して、人と人がつながっていく形をとりたい。その「つながり」という関係の中で人は成長(変化)していく。そこにこそ生の本質があるという人間観の反映である。『空気人形』は表面上は恋愛映画であるが、作品の奥底にあるのは、人は自らの空虚感をどのように埋められるのか? 生きるとはどういうことか? 人間とは何か? といった本質的な問いなのである。

●原作:業田良家コメント
私の原作「空気人形」は20ページの短編漫画である。それを2時間近くの映画、物語にした是枝監督の想像力と力量には驚く。脚本は主人公の空気人形を中心に何人もの人生がさりげなく描かれ、見事な構成だ。映画を観て、心を持つ悲しさと喜びを改めて感じてもらえれば原作者としても嬉しい。撮影中のペ・ドゥナは本当に人形のようでかわいかった。人間と人形の中間にあるエロスが可笑しくも美しい。

●主演:ペ・ドゥナコメント
最初に脚本を読んだ時、”空気人形”という形は小さいけれど特別な素材で、大きな世界観を表現している作品だと感じました。可愛くて穏やかだけれど、どこか寂しさを感じさせ、そして悲しくも美しいストーリーで、心が痛くなりました。私が演じながら一番重要に思っているのは「心」です。空気人形は、まるで産まれたばかりの赤ちゃんのように透明で、綺麗で、汚れのない心を持っています。そしてこの世を生きながら、人々に触れながら、その心を受け取っていくことの表現に重点を置いています。
是枝監督は、私が今まで作品をご一緒した監督たちの長所だけを集めたような完璧な方だと思います。創意力と世界観、人間への愛情、リーダーシップ、人柄、意志と固執、ユーモア、纎細なところまで全てを持っていらっしゃいます。演技に対しては、技術より「真心」が優先ということを大事にしていらっしゃるので、私が好んでいるスタイルで、とても相性が良いと思っています。撮影中は常に、この『空気人形』という作品で、こんな素晴らしい役を、こんな素晴らしい仲間と一緒にやっている事実が、感動的でたまりませんでした。
前作から少し時間が経ちましたが、日本の皆様に以前とはまた違う私の姿を、より良い演技でお魅せできるように頑張ります。

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執筆者

Naomi Kanno