今年を代表するアート・エンタ・アニメ・マンガ作品が勢ぞろい

文化庁メディア芸術祭実行委員会(文化庁・国立新美術館・CG-ARTS 協会)は、本年度の受賞作品24 点、功労賞1 点、推薦作品138 点を決定しました。
今年度は、アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4 部門に、世界43 の国と地域からご応募いただいた2,091 点( 昨年1,808 点) の中から選ばれています。
アート部門大賞は、原爆ドームの90 年の歴史を膨大な写真をコラージュのように綴った映像作品『nijuman no borei』。エンターテインメント部門は、さまざまなスポーツを題材に、新しいインターフェースによってビデオゲームの新しい可能性を切り開いた『Wii Sports』。アニメーション部門は、河童と少年のひと夏の出来事を描いた劇場公開作品『河童のクゥと夏休み』。マンガ部門は、刑務官が死刑囚と向かい合い葛藤する姿を独特のタッチで描いた『モリのアサガオ』が受賞しています。
功労賞には、日本のテレビアニメの黎明期から、脚本家としてSF 、 スポーツ、ファンタジー、ホームドラマ、ギャグ、スリラーと数多くの作品を世に送り出してきた辻真先氏が選ばれました。

[ 第11 回] 文化庁メディア芸術祭 開催概要
会 期   2008 年2 月6 日( 水) 〜 2 月17 日( 日) 10:00 〜 18:00 金曜は20:00( 入館は閉館の30 分前、12 日( 火) 休館)
会 場   国立新美術館 企画展示室2E( 東京・六本木)
入場料   無料
URL   http://plaza.bunka.go.jp/

大賞・功労賞 贈賞理由
アート部門 大賞『nijuman no borei』 ジャン ガブリエル ペリオ
本作は、1915 年に広島県物産陳列館として開館し、被爆によって廃墟となった原爆ドームの90年の歩みを、スティール写真1000 枚をアニメーションのコマ取りにように重ねてつくった時間のコラージュである。ドーム(これは半球体であるがゆえにどの方向からでもそれと同定できる)を中心に、その周辺の変化—建設、破壊、復興の過程のドラマが展開される。主人公であるドームは生き物のように周りと関わりながら変貌する。過去に幾度もとりあげられ、クリシェに陥りかねないテーマを、ペリオ監督は「作品をつくり続けることで新たな視点を与え感動を引き出すことができる」と核廃絶へのメッセージの継続の重要さを語る。今メディアアートに何ができるか、多くのドキュメンタリーとアートが交錯する試みがなされている現在、静かだが深い感銘を与える作品である。

エンターテインメント部門 大賞『 Wii Sports』
開発チーム 代表 太田 敬三
エンターテインメント部門の大賞は、委員の満場一致で比較的すんなりと決まった。ただし、ひとつだけつけ加えておきたいのは、これが『Wii Sports』というソフト単体だけではなく、ゲームマシン、インターフェイス、OS、Mii(アバター)などを含めた、Wii というシステム全体に対する評価であることだ。本賞の趣旨に則していえば、” メディアとしてのWii” が大賞に値するという判断である。商用ゲーム史における最初のヒット作は、ピンポンをモチーフにしたものだ。『Wii Sports』は、ゲームの原点ともいえる ” スポーツ” を ” 新しい皮袋” に入れることによって、メディア体験の新たな地平を切り開いたのだ。

アニメーション部門 大賞『河童のクゥと夏休み』 原 恵一
康一少年が河原で拾った石から復活した河童の子クゥを通して、人間の優しさ、醜さ、小ささ、それと人間社会の怖さ、歪み、マスコミの傲慢さ、などを見事な脚本と演出で描き出した原恵一監督の手腕を高く評価したい。日本ではお馴染みの妖怪とはいえ、クゥのキャラクターがカワイ〜だけではなく、今は忘れられかけている、受けた「恩」は忘れない古風な性格の子どもとして描いたところがいい。人間に殺された父への想い、TV 局からクゥを脱出させる途中で命を落とした犬のオッサンの身の上など、今の社会問題を含んだ内容が涙を誘う。『クレヨンしんちゃん』で名作をつくり続け、試してきたものが集大成されたような長編アニメーション映画の傑作。

マンガ部門 大賞『モリのアサガオ』 郷田 マモラ 
大罪を犯し収監されて、毎日毎朝死と向き合っている死刑囚たちと、彼らの世話をし、いつの日か、ついに自らの手で送ることになる刑務官の日常をコツコツと真摯に描いている。人間の心はとても不安定なもの。ほんのちょっとしたきっかけで、やさしい善良な人にも、恐ろしい凶悪犯にもなれてしまう。そして「死刑」は是か非か。非常に難しいテーマを郷田マモラ氏は自ら悩み自問自答をしながら、深く暗い森の中をさ迷いながら描き続けた作品がコレだ。「読者や人気アンケート等には拘泥せず創作する姿勢が見えて清々しい。地味ではあるが、郷田マモラ氏の誠実な取材に裏付けられた人物表現やストーリー展開、そして独特な筆致と演出はズッシリと重く、我々に色々な問題を問いかけてくる」というのが審査委員の共通の感想だった。

功労賞 辻 真先(アニメ脚本家・ミステリー作家)
辻真先さんはテレビアニメの黎明期から、ものすごい量の脚本を書いてこられた。 SF 、 スポーツ、ファンタジー、ホームドラマ、ギャグ、スリラー…彼の才能に死角はない。とにかく引き受けたら何でも書いてしまう…と、まあそんな感じがするほど、その量たるや半端なものではない、ゆうに1500 本を超えているという。とにかく書くスピードが早いらしい。このスピードがテレビアニメ界のストーリー部分を支えてきたことに多言を要しないだろう。しかも辻さんの興味はテレビアニメを越え、推理小説を書き、鉄道を愛し、温泉宿を訪ね、そして座談の名手…アニメのことを話し始めると留まることがない。本当に本当にアニメが好きな人である。