余命短い男性のささやかな恋を静謐で叙情的な語り口で綴った『八月のクリスマス』と、分断国家ならではの題材をスケール大きなエンターテインメントに仕上げた『シュリ』は、韓国映画の新しい時代の始まりを日本に告げた。私たちはその時、嫉妬にも似た驚きを感じながら「隣の国ですばらしい映画が作られはじめている」事実に初めて気づいたのだ。その驚きは、『JSA』『猟奇的な彼女』『オアシス』『殺人の追憶』といった良質な作品群が次々と上陸してくるにつれ「韓国映画はおもしろい」という確信に変わり、日本で公開される韓国映画の数も飛躍的に増加した。
韓国映画の実力が知らしめられたの同じ頃、中国語圏に端を発した“韓流”が日本に到達し、一気に社会現象化するほどの大ブームとなった。韓国人俳優がハリウッドスターをしのぐほどの知名度を得て、彼らを見るために、幅広い観客が劇場にも足を運ぶようになった。韓国の映画や芸能についての情報もインターネットを通じてリアルタイムで伝わるようになった。
一方、映画製作における共同作業も、日常的に行われる時代となった。中谷美紀が出演した『力道山』や久石譲が音楽で参加した『トンマッコルへようこそ』、クァク・ジェヨン監督が日本を舞台に綾瀬はるか主演で手がける『僕の彼女はサイボーグ』(2008 年公開予定)などのように出演者やスタッフが行き来して作られる作品だけでなく、韓国では『私の頭の中の消しゴム』や『オールドボーイ』をはじめとして、日本のコミックス、ドラマ、小説の映画化、ドラマ化が多数登場。日本でも『八月のクリスマス』のリメイクや『マイ・ボス マイ・ヒーロー』をモチーフとしたドラマが作られている。日韓の映画界は、企画段階から人材とアイディアを共有するゆるやかな共同体になりつつあると言えるだろう。
「韓国映画ショーケース」は、韓国映画の“発見”から約10 年を経て、韓国発のエンターテインメントを見聞きすることが当たり前になった日本で、現在の韓国映画の持つ“掛け値なしの魅力と実力”に再び出会うために企画された。ここで紹介されるバラエティに富んだ9本は、90年代後半以降の韓国映画の隆盛を反映しつつも、内容や人材といった様々な面で新しい可能性の萌芽を感じさせる作品ばかりだ。
良質な韓国映画は今も生み出され続けている。そして、今や市場であるだけでなく、共に新しい作品を生み出していくパートナーでもある私たちは、これらの作品を見ながら、映画の豊かな未来を夢見ることができるはずだ。

【上映作品】
『家族の誕生(原題)』Family Ties

韓国/2006 年/113 分/35mm/2.35:1/Color/Dolby SRD
監督:キム・テヨン
脚本:キム・テヨン、ソン・ギヨン
主演:オム・テウン、ムン・ソリ
提供:CJ Media Japan

2006年東京国際映画祭「アジアの風」部門出品作品
2006年度大鐘賞映画祭最優秀作品賞、脚本賞受賞/2006年度青龍映画賞監督賞、助演女優賞受賞
長く音信不通だった弟ヒョンチョルが年上の恋人ムシンと共に帰ってきたことにとまどうミラ。男出入りの激しい母親と、父親違いの弟につらくあたってばかりのソンギョン。誰にでも優しくしてしまうことで恋人を不安にさせてしまうチェヒョン。それぞれの事情を抱えながら“普通”とは少し違う形で愛情豊かな家族の形を模索する女性たちの姿をリアルな感情と独創的なタッチで描く。三つの物語は意外な形でゆったりとつながる。監督は『少女たちの遺言』を共同演出したキム・テヨン。

『カンナさん大成功です!』200 Pounds Beauty

韓国/2006 年/116 分/35mm/2.35:1/Color/Dolby SRD
監督:キム・ヨンファ
脚本:キム・ヨンファ、ノ・ヘヨン
主演:キム・アジュン、チュ・ジンモ
提供:アミューズ/
ワーナー・ブラザース映画/S・D・P
配給:ワーナー・ブラザース映画

2006年度大鐘賞映画祭主演女優賞、音楽賞、撮影賞受賞
人気歌手アミの陰で彼女の“声”として歌うカンナ。歌唱力抜群ながら、体重95kg の彼女には表舞台に出るチャンスはなかった。ある夜、思いを寄せていたプロデューサー、サンジュンに利用されていることを知ったカンナは、重大な決心をする。全身整形手術で運命を切り開こうとする女性を描いた鈴木由美子の同名漫画を、韓国芸能界を舞台に映画化。映画初主演となるキム・アジュンが見事な歌も披露し、大鐘賞などで主演女優賞を受賞した。観客動員数662 万人の大ヒット作。

『極楽島殺人事件』Paradise Murdered

韓国/2007 年/112 分/35mm/2.35:1/Color/Dolby Digital
監督:キム・ハンミン
脚本:キム・ハンミン
主演:パク・ヘイル、パク・ソルミ
2006 年度大鐘賞映画祭最優秀照明賞受賞

1986 年のある日、住民17 人が暮らす極楽島から近くの港に死体が流れ着き、捜査のために島に渡った刑事たちは、住民が一人残らず消えていることを知る。1カ月前、そこでは花札賭博をしていた男たち2人が殺されたことをきっかけに真相不明の殺人事件が連続して起こっていた。土俗的な雰囲気ただよう孤島で起きる殺人事件の謎に迫るミステリー。『グエムル -漢江の怪物-』のパク・ヘイル他、実力ある俳優たちが疑心暗鬼にとりつかれた島民たちを迫力ある演技で見せる。

『千年鶴』Beyond the years

韓国/2007 年/100 分/35mm/1.85:1/Color/Dolby SRD
監督:イム・グォンテク
脚本:イム・グォンテク
主演:チョ・ジェヒョン、オ・ジョンへ
2007 年トロント国際映画祭「マスターズ」部門出品作品

パンソリの歌い手である男の元で姉弟同様に育てられたソンファとドンホ。貧しい暮らしに嫌気が差したドンホはある日、彼らの元を去る。やがて、ソンファに会おうと行方を捜したドンホは彼女が盲目となったことを知る。出会いと別れを繰り返す2人の姿をパンソリの調べに乗せて描き出す傑作。『風の丘を越えて.西便制』の姉妹編ともいえる作品で、ソンファを演じるオ・ジョンヘが円熟味を増した歌声を披露。彼女を思い続けるドンホ役を『悪い男』のチョ・ジェヒョンが演じる。

『バント(仮)』Bunt
韓国/2007 年/96分/35mm/1.85:1/Color/DolbySRD
監督:パク・ギュテ
脚本:パク・ギュテ
主演:チョン・ジニョン、チェ・ウヒョク

世界で一番好きな場所、学校に元気に通う小学生ドング。男手一つで彼を育てた父ジンギュはそんな彼を温かく見守っていた。しかし、学校はIQ60 で失敗ばかりのドングを特殊学校に転校させることを提案。ドングは廃部寸前の野球部に入ることでなんとかこれを逃れようとするのだが……。父と子のささやかで愛情にあふれる毎日を丁寧に綴ったヒューマン・ドラマ。ハンディキャップを持った息子を小学校に通わせ続けるため奮闘する父親を『王の男』のチョン・ジニョンが演じている。

『飛翔』Bisang
韓国/2006 年/100 分/Digit Beta/(スクリーンサイズ)/Color/(音響)
監督:イム・ユチョル
2007 年釜山映画評論家協会賞審査委員特別賞受賞

2005 年、J リーグの監督経験もあるチャン・ウェリョンがK リーグのお荷物チーム仁川ユナイテッドFC 監督に就任。
徹底したデータ分析と的確な練習で勝利を重ねるようになる。そしてチームは、過酷な練習環境と選手層の薄さにも負けず、目標だったプレーオフ進出を果たす。仁川UFC が奇跡の躍進を見せたシーズンをチームの内側から共感を持ってフィルムに収めた感動作。韓国では約4万人の観客を動員し、ドキュメンタリーの可能性を広げた。

『マイ・ファーザー』My Father
韓国/2007 年/107 分/35mm/1.85:1/Color/Dolby SRD
監督:ファン・ドンヒョク
脚本:ファン・ドンヒョク、ユン・ジノ
主演:キム・ヨンチョル、ダニエル・ヘニー

5歳の時に韓国からアメリカに渡り、養父母の元で不自由なく育ったジェイムス・パーカーは、実の両親を捜すため駐韓米軍に志願し祖国の土を踏む。テレビや新聞で呼びかけ、ついに父親を見つけるが、彼は殺人を犯して刑務所に収監されていた。ジェイムスは彼の元に面会に通い、亡くなった母親についての話を聞き出す。幼い頃に養子に出され、死刑囚である実の父親と対面した青年の実話をドラマ<春のワルツ>のダニエル・ヘニー主演で映画化。父と息子の心情を静かに見つめた感動作。

『横綱マドンナ(仮)』Like a Virgin
韓国/2006 年/116 分/35mm/2.35:1 /Color/Dolby SRD
監督:イ・ヘヨン、イ・へジュン
脚本:イ・ヘヨン、イ・へジュン
主演:リュ・ドックァン、ペク・ユンシク
提供:アミューズ

2006 年度大鐘賞映画祭新人男優賞受賞/2006 年度青龍映画賞新人監督賞、脚本賞、新人男優賞受賞
幼い頃から歌手マドンナを崇拝する男子高校生オ・ドングは、完璧な女性になるための手術に必要な金を稼ぐためアルバイトに励んでいた。そんなある日、「シルム(韓国相撲)大会の優勝者には奨学金500 万ウォン」という朗報を聞いた彼は、シルム部へ入部する。心優しく繊細な高校生がシルムに打ち込みながら力強く生き抜く自信を得るようになるまでを描いたスポーツ・ヒューマン・コメディ。増量して主人公に扮したリュ・ドックァンの演技がすばらしい。
日本語教師役で草なぎ剛が特別出演。

『われらの学校.ウリハッキョ.』Our School
韓国/2006 年/131 分/DV-Cam/(スクリーンサイズ)/Color/(音響)
監督:キム・ミョンジュン
2006 年釜山国際映画祭「ドキュメンタリー」部門最優秀賞受賞

小学校1年生から高校3年生までの生徒たちが学ぶ北海道朝鮮初中高級学校。キム・ミョンジュン監督は3年以上の時を生徒や教師たちと共に過ごしながら、在日コリアンたちが自らの手で育ててきた学校の歴史と現在を温かく描き出す作品を作り上げた。一部を除き日本語を一切使わない授業や合唱大会などの行事、クラブ活動、寮生活の合間に挟まれるインタビューから、生徒たちを取り巻く状況と彼らの心が強く伝わってくる。韓国では一般上映、地方自治体での上映合わせ7万人以上の観客を動員。

【開催概要】
■主催 韓国映画振興委員会(KOFIC) / シネカノン
■協力 ART PLUS、アミューズ、イモーションピクチャーズ、映画社ジンジン、S・D・P、MKピクチャーズ、韓国独立映画協会、KMカルチャー、CJエンターテインメント、CJ Media Japan、CineQuaNon Korea、SHOWBOX MEDIAPLEX、プライムエンターテインメント、ロッテエンターテインメント、ワーナー・ブラザース映画
■会場 シネカノン有楽町1丁目
千代田区有楽町1-11-1 ビックカメラ7F TEL:03-3283-9660
■後援 駐日韓国大使館 韓国文化院
■会期 2007年12月8日〜14日