1988年、今は無き中野武蔵野ホールにて公開された『追悼のざわめき』は、同館開設以来の観客動員記録を打ち出し、全国でのべ5万人を動員する。それはインディペンデント映画として製作された作品としては異例であり、現在でも伝説として語りつがれている。同作を生み出した原動力となったのは、80年代インディーズ映画の神がかり的なエネルギーであり、松井良彦、佐野和宏という2人の男が出会ったことによるものである。 2007年夏、『追悼のざわめき』は初公開から19年の時を経て、デジタルリマスター版として甦り、再び劇場公開が決まった。松井良彦は20年の沈黙をやぶり、遂に、新作の製作中である。今見るべき男達はここにいる。
今回、松井良彦と佐野和宏が出会い、共に歩み始めた『錆びた缶空』、『豚鶏心中』。その後佐野和宏が自ら監督し出演した作品を集め、二人が再び相見える場として、特集上映という名の饗宴が幕を上げる。

■上映期間
2007年7月28日(土)〜8月3日(金)までUPLINK FACTORY

■タイムスケジュール
7/28(土) 18:30『豚鶏心中』    20:30『Don’t let it bring you down』
7/29(日) 18:30『錆びた缶空』  20:30『破壊せよ、醜悪なるものを』
7/30(月)16:30『豚鶏心中』 18:30『錆びた缶空』 20:30『走れ、走りつづけよ!』
7/31(火)16:30『錆びた缶空』 18:30『豚鶏心中』 20:30『日本の悲(×)喜劇』
8/01(水)16:30『豚鶏心中』 18:30『錆びた缶空』 20:30『ミミズのうた』
8/02(木)16:30『錆びた缶空』 18:30『豚鶏心中』 20:30『坊さんが屁こいた』
8/03(金)16:30『豚鶏心中』 18:30『錆びた缶空』 20:30『ふくろうの夏』

★期間中イベント開催!! 7/28(土)18:30終映後 松井良彦×中原昌也 8/3(金)18:30終映後 松井良彦×佐野和宏 トークショーあり

提供:国映株式会社、新東宝株式会社、PFF事務局、松井良彦、佐野和宏  企画協力:SPOTTED PRODUCTIONS、林田義行
企画・配給:バイオタイド、安岡フィルムズ、UPLINK

■松井良彦(まついよしひこ)
ホモセクシュアルの三角関係を描いた、処女作『錆びた缶空』(1979年/撮影:石井聰亙)が、ぴあ誌主催のオフシアター・フィルム・フェスティヴァル(現PFF)に入賞。一部に熱狂的なファンを持つ、いわば“カルト・ムーヴィー”の草分け的存在となる。続く第二作は、在日韓国人の男女の愛と差別による別れを鮮烈に描いた『豚鶏心中』(81年/撮影:原一男)。故・寺山修司氏の天井桟敷館で長期ロードショーを果たした。第三作『追悼のざわめき』(88年)は、脚本を読んだ故・寺山修司をして「映画になったら事件だね」と言わしめ、実際の撮影も難航するが、撮影開始から4年後の1988年5月、今は無き中野武蔵野ホールにてロードショーを開始。同館開設以来の観客動員記録を打ち出した。同作は、『追悼のざわめき デジタルリマスター版』として甦り、2007年8月にイメージフォーラムにて公開される。そして、長年待ち望まれていた新作『どこに行くの?(仮題)』も撮了し、現在仕上げ中である。

■佐野和宏(さのかずひろ)
明治大学在学中に石井聰亙、松井良彦らと出会い、彼らの作品に参加。『錆びた缶空』(79)、『豚鶏心中』(81)、『狂い咲きサンダーロード』(80)に出演、その後渡辺護、小水一男(ガイラ)の作品の出演によってピンク映画に関るようになる。以降、
2本の自主映画『ミミズの唄』(82年)、『ドライフラワー』(86年)を制作しながら俳優としても活躍。特に松井良彦監督の『追悼のざわめき』(88年)での怪演ぶりは印象深い。脚本作を経て、89年に監督デビューし、脚本、監督、出演を自ら手掛けるというピンク映画界においては極めて稀な制作スタイルと、力強くも哀愁に満ちた作風で注目を集める。佐藤寿保、サトウトシキ、瀬々敬久らと共に、「ピンク四天王」と呼ばれ、ピンク映画界のみならず、一般からも高い評価を受ける。また、俳優としての出演作は100本をゆうに越えている。現在、松井良彦監督の最新作『どこに行くの?(仮題)』にも出演している。

■[上映全作品解説]
○錆びた缶空(1979年/59分)
監督・制作・脚本:松井良彦 /映像:石井聰亙 出演:田村三郎、佐野和宏、秋田光彦
同棲するホモセクシシュアルのカップルの前に、彼らの一人に一目惚れした第三の男が現れる。絡み合った三角関係が思わぬ悲劇をまねくことに・・・。撮影は石井聰亙が担当をしているが、 当時の石井のスピーディーなロックンロール・ムーヴィーとは異質な、重く切ない作品として仕上っている。佐野和宏は本作の中では、自信に満ちた暴力を振るう、きわめて男根的・専制的キャラクターとして出演するが、その男根は食いちぎられ、のたうち回ることになる。

○豚鶏心中(1981年/90分)
監督・脚本:松井良彦 /撮影:原一男 出演:萩尾なおみ、服部隆宏、佐野和宏、日野利彦、ギリヤーク尼ヶ崎
在日韓国人の男女の、差別によって引き裂かれた愛とを、鮮烈に描いた、スキャンダラスな衝撃作。撮影は、原一男が担当。少年期のシーンでミイラが登場するなど、寺山修司的、あるいはフェリーニ的な美術世界が展開。主人公の愛の苦痛を、<屠殺>という視覚的苦痛の中で描写したシーンは、賛否まっ二つに評価が分かれた。佐野和宏は、実の妹に自分の子供を孕ませた男の役を演じている。

○Don’t let it bring you down (公開タイトル:変態テレフォンONANIE/1993年/60分)
監督:佐野和宏 /撮影:斉藤幸一 /出演:岸加奈子、佐野和宏、梶野孝、津崎公平 他
タイトルの『Don’t…』(へこたれちゃダメだ)と何度も呟きながら走っていく青年の姿から映画は始まる。その言葉は我々観客への熱いメッセージでもある。追う者と追われる者、夢見る映画青年ともう後がない二人の男女。そんな人間達の愛と欲望、そして宿命が大胆なストーリーの中に描き出される。「ラブ・ミー・テンダー」をバックにしたラストシーンは感動的だ。

○破壊せよ、醜悪なるものを(公開タイトル:人妻ONANIE 甘い痺れ/1990年/61分)
監督:佐野和宏 /撮影:斉藤幸一 /出演:佐野和宏、岸加奈子、川奈忍、荒木太郎 他
裏街に生きるチンピラ風の男と彼と暮らす女を中心に、彼らが出会う人間達とやがて巻き込まれて行く事件について描いている。作品全体にアメリカン・ニューシネマ的な匂いが漂い、その一方佐野和宏演じるアウトロー的主人公の姿にはかつての任侠映画をも彷彿とさせる。

○走れ、走りつづけよ!(公開タイトル:爛熟性戯 うずく/1991年/55分)
監督:佐野和宏 /撮影:斉藤幸一 /出演:佐野和宏、岸加奈子、川奈忍、荒木太郎 他
『破壊せよ、醜悪なるものを』の続編で、前作でヤクザに追われる身となった主人公が千葉の田舎町へ移り住んだその後を描いている。悲劇的な結末を以てその物語を完結させているが、『走れ、走りつづけよ!』という題名の如く走り続ける主人公達の姿のイメージショットがラストに映し出され、これが監督自身、そして我々観客への強い意思表示であると感じられる。

○日本の悲(×)喜劇(公開タイトル:不倫・母・娘/1993年/58分)※悲の文字に×が上に乗る。
監督:佐野和宏 /撮影:斉藤幸一 /出演:岸加奈子、佐野和宏、梶野孝、青山美佐 他海近くの別荘で休暇を楽しむ母娘とその婚約者。そこへ突然中年の男女と青年の3人組が押し入って来る。3人のアウトサイダーと3人の平凡な人間達が異常な行為の中で“生きる”ということを感じていく。すべてが反社会的な行為の繰り返しのように見えるアウトロー達だが、そうした行為の空虚さ、そしてそれを“喜劇”と呼称する監督の叫びを感じて欲しい。

○ミミズのうた(1982年/80分)
監督:佐野和宏 /撮影:福島清和 /出演:佐野和宏、小水一男、五月マリア、松井良彦 他
松井良彦、石井聰亙らの自主製作映画への出演を経て、自ら監督した自主製作映画。初監督作品でありながら、孤独な日常と拳銃を手に入れ暴走する主人公の青年役を佐野自ら演じ、自作自演のスタイルを早くも確立している。83年のぴあフィルムフェスティバルに入選し、エジンバラ映画祭、アントワープ映画祭など海外の映画祭へ出品される。ハードで切ない佐野映画の原点がここにある。

○坊さんが屁こいた(公開タイトル:未亡人 初七日の悶え/1993年/61分)
監督:瀬々敬久 /撮影:斉藤幸一 /出演:小川真美、摩子、蒲田市子、佐野和宏、下元史朗
東京の下町を舞台に、複雑な人間関係の中であらわになる物欲と劣情を描いた異色活劇。
今回の特集上映で佐野和宏関連作品としては、唯一の出演のみの作品。監督は同じくピンク四天王のひとりに数えられている瀬々敬久。佐野は大衆酒場で働く未亡人に恋をし、彼女の為に立ち上がる好色エロ坊主を痛快に演じている。撮影は佐野作品のほとんど全てを手掛けている名手、斉藤幸一。手持ちカメラによる映像が躍動感にあふれている。

○ふくろうの夏(公開タイトル:熟女のはらわた 真紅の裂け目/1997年/60分)
監督:佐野和宏 /撮影:斉藤幸一 /出演:佐野和宏、麻生みゅう、工藤翔子、吉行由美 他
佐野和宏が演じるのは、自分の罪を密告した妻に復讐するために脱獄した男。道中、援助交際相手に襲われていた少女を救ったことで、脱獄犯と少女の奇妙な逃避行がはじまる。町へ出て金と拳銃を手に入れた男は妻の前に現れるが…。性と暴力を前景におきながらも、絶望のなかで救いをもとめ生き続ける人間の喜怒哀楽を描き続けてきた佐野和宏の現時点での最新作である。

詳細は「追悼のざわめき」公式HPのEVENTSページにて
http://www.tsuitounozawameki.net/

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