第二次大戦後、関西で武智歌舞伎を創始、歌舞伎、能、義太夫、オペラなど古典芸能全般に精通し、演出家であり、高度な演劇理論家として多数の著書を遺した巨匠・武智鉄二。二代目中村扇雀、五代目中村富十郎、市川雷蔵ら多くの人材を育てたことでも稀有の存在である。
武智は、映画監督としても多くの作品を遺した。それらの作品は、彼の古典芸能をアレンジした作品が、しばしばスキャンダラスな話題を伴って迎えられたように、公開当時の観客の度胆を抜いた。どれもエロスの美に満ち、それは当時の表現の限界への挑戦であった。
1960年代、「表現の自由」がまだ表面的なものでしかなかった時代に、反米・反戦を唱えるため全力で権力と闘った熱き映画作家であり、80年代には、「真の性の解放」を徹底的に追求し、世間を騒然とさせたスキャンダラスな映画作家であった。
在日米兵のスキャンダルを描き、猥褻裁判を引き起こし、結果無罪を勝ち取るが、三島由紀夫、大島渚ら知識人たちを証言台に立たせたことでも大きな話題を呼んだ『黒い雪』。谷崎潤一郎の戯曲の映画化で、エロスの極限を追求して大ヒットを記録した『白日夢』(1964)。そのリメイクで、大島渚監督の『愛のコリーダ』(1976)に次いで、ハードコア撮影を敢行し、女性客をも集めてヒットした『白日夢』(1981)。やはり谷崎の2短篇をミックスして映画化した異色の芸術作『紅閨夢』。
 武智の映画デビュー作で、今見るとキッチュな異色ドキュメンタリー『日本の夜 女・女・女物語』。絢爛豪華な時代絵巻を繰り広げた『源氏物語』。三たび谷崎に材をとり、明治時代の長崎の遊廓で繰り広げられるハードコア大作『華魁(おいらん)』。『戦後残酷物語』『浮世絵残酷物語』の“残酷”シリーズ。武智自ら「最後のハードコア」と語り、正しく遺作となった『白日夢2』。エロスと日本的な様式美が相俟った映画作品は、異色のアヴァンギャルド芸術でもある。また、2006年、生誕120年を迎える谷崎潤一郎原作の作品が10作中5作を占めるのも、大変興味深い。
全10作品を上映するこの特集で、「はやすぎた天才」武智鉄二の映画世界の真価が初めて明かされることだろう。

フィルモグラフィー(特記以外は監督作品)
1963年 日本の夜 女・女・女物語(佐野芸術プロ)、母(新藤兼人監督)出演     
1964年 白日夢(第三プロ)、紅閨夢(第三プロ)
1965年 黒い雪(第三プロ)
1966年 源氏物語(源氏映画社)
1968年 戦後残酷物語(武智プロ)、浮世絵残酷物語(武智プロ)
1972年 讃歌(新藤兼人監督)出演 
1973年 スキャンダル夫人(第三プロ)
1981年 白日夢(武智プロ)
1983年 華魁(武智=小川プロ)、高野聖(日本未公開)
1987年 白日夢2(第三プロ)

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