アジア初の国際ドキュメンタリー映画祭として、1989 年から隔年で開催され続け、今年で記念すべき 15 回目を迎える山形国際ドキュメンタリー映画祭 2017 のアジア千波万波部門 21 作品のラインアップが決定致しましたのでご報告致します。

アジア千波万波部門とは
1989年の第1回開催当時、ドキュメンタリー映画に焦点をあてた映画祭がアジアで初めて開催されるに至ったものの、アジア地域からの作品がほとんど見当たらなかったことに端を発して、アジアのドキュメンタリー作家を応援し、発表の場を生み出すことを目的としたコンペ部門として93年に設けられました(当時の名称「アジアプログラム」)。アジアの作家の成長を誰よりも強く望んだ小川紳介監督(山形県上山市牧野村にプロダクションごと移住し、自給自足の生活を送りながら映画制作を行った)の意志を受け継ぐ意味を込めて、「小川紳介賞」が設けられています。これまで、カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した河瀬直美監督やアピチャッポン・ウィーラセタクン監督ほか、アジア千波万波部門での上映をきっかけに、国際映画祭の舞台へと巣立っていく作家が後を絶ちません。
今年のアジア千波万波部門は63の国と地域から645本の応募があり、上映作品21作品のうち日本の作品が3作品選ばれています。

上映作品一覧 ※海外作品の日本語タイトルは全て仮題です。※括弧内NAC=アジア千波万波

1『自画像:47KM に生まれて』 Self Portrait: Birth in 47 KM
監督:章梦奇(ジャン・モンチー)
Zhang Mengqi
中国/2016/101分
中国の田舎の風景に、厳しい人生を送ってきた腰を曲げて歩く老女と孫娘。時にパフォーマンスを交えた『三人の女性の自画像』(2011 NAC)の章梦奇作品。

2『長江の眺め』 A Yangtze Landscape
監督:徐辛(シュウ・シン)
Xu Xin
中国/2017/156分
揚子江を上海から宜賓(イビン)まで遡っていく。それぞれの地での事件を字幕で表わし、移り変わる風景のなか沿岸で生活する人々を描く、ゆったりとした映画的時間。

3『カーロ・ミオ・ベン(愛しき人よ)』 Caro Mio Ben(My Dear Beloved)
監督:蘇青(スー・チン)、米娜(ミーナー)
Su Qing, Mina
中国、シンガポール/2017/118分
視力や聴力に障がいを持つ子どもたちが通う学校の日常世界。思春期を迎える少女たちそれぞれの心の揺らぎを見つめる『白塔』(2005 NAC)の蘇青、米娜作品。

4『乱世備忘—僕らの雨傘運動』Yellowing
監督:陳梓桓(チャン・ジーウン)
Chan Tze-Woon
香港/2016/128分
香港、雨傘革命。警官たちとの対峙や衝突のなかで、参加する若者たちの視点に立ち、彼らの日常会話に耳を傾け、感情の喜怒哀楽を素直に伝える。

5 『あまねき調べ』 Up Down & Sideways
監督:アヌシュカ・ミーナークシ、イーシュワル・シュリクマール
Anushka Meenakshi、Iswar Srikumar
インド/2017/83分
ミャンマーとインドの国境近くのナガランドの農村に響く、協働のコール&レスポンス。田畑も、恋も、友情も、苦い記憶も、皆が歌とともにある。

6 『ノカス』 Nokas
監督:マヌエル・アルベルト・マイア
Manuel Alberto Maia
インドネシア/2016/76分
西ティモール、クパン。結婚を控えたノカスは、持参金など家同士の「結婚」事情に翻弄されながらも、たくましい姉や母の力を借りて実現に向けて動く。

7 『夜明けの夢』 Starless Dreams
監督:メヘルダード・オスコウイ
Mehrdad Oskouei
イラン/2016/76 分
少女たちが更生施設で迎える新年。彼女たちにとって塀の外の世界とは? 『母の家は入り江』(2001NAC)のメヘルダード・オスコウイ作品。

8 『風のたより』 Lives After 3.11
監督:田代陽子 Tashiro Yoko
日本/2015/180分
2011 年の震災後の 2 年間、北海道・大沼の山田農場、洞爺湖畔のパン屋、大沼対岸の青森・大間の漁師。原発への不安を抱きながらの生活を丹念に追う。

9 『創造の発端—アブダクション/子供—』 The Beginning of Creation: Abduction / A Child
監督:山城知佳子 Yamashiro Chikako
日本/2015/18分
ダンサーの川口隆夫による舞踏家の故・大野一雄の伝説的な舞台の再現。作者の視線は、立ち現れた得体の知れない剥き出しの身体に密着する。

10 『肉屋の女』 A Woman of the Butcher Shop
監督:山城知佳子 Yamashiro Chikako
日本/2017/27分
米軍基地があるために開発を免れた浜に漂着した肉塊を解体し、売る女。肉に群がる男たち。
現実と創作を往き来しながら、沖縄の今が描き出される。

11『バムソム海賊団、ソウル・インフェルノ』 Bamseom Pirates,Seoul Inferno
監督:チョン・ユンソク Jung Yoon-suk
韓国/2017/119分
韓国社会の様々な問題と接点を持ちながら、若者の閉塞感をシャウトするパンクユニット、バムソク海賊団。しかし 2012 年、友人/プロデューサーが国家保安法で逮捕され…。

12 『ウラーッ!』 Hurrahh!
監督:チョン・ジェフン Jung Jae-hoon
韓国/2011/74 分
一人の人間の肉体が、個体性を少しづつ侵食されながら、同時に氾濫の時を伺っている。
不穏な空気とともに、叫びがこだまする、ある男の家と仕事の往復。

13 『人として暮らす』 The Slice Room
監督:ソン・ユニョク Song Yun-hyeok
韓国/2016/69 分
生活困窮者が身を寄せ合って暮らすジョクバンが再開発で消えようとしている。監督はそこで生活しながら、生活保護制度のひずみも浮かび上がらせる。

14 『このささいな父の存在』 This Little Father Obsession
監督:サリーム・ムラード Selim Mourad
レバノン/2016/104分
家も家系も引き継げないゲイである監督が、父を、家族を、伝統を、耽美とユーモアで挑発する。『髪を切るように』(2011NAC)のサリーム・ムラード作品。

15 『くるまれた鋼』 Rubber Coated Steel
監督:ローレンス・アブ・ハムダン
Lawrence Abu Hamdan
レバノン、ドイツ/2017/19分
2014 年、イスラエル兵がパレスティナ人の若者 2 人を撃った事件。その弾丸をめぐる法定での審理記録や銃声の解析図から沈黙の裁判が立ち現れる。

16 『そこにとどまる人々』 Those Who Remain
監督:エリアーン・ラヘブ Eliane Raheb
レバノン、アラブ首長国連邦/2016/95分
シリアとの国境に近いレバノン北部で食堂を営み、変わりゆく村に留まり続ける男の思いが刻まれる。『されど、レバノン』(2009NAC、奨励賞)のエリアーン・ラヘブ作品。

17 『猫、犬、動物、そしてサシミのこと』 Of Cats, Dogs, Farm Animals and Sashimi
監督:ペリー・ディゾン Perry Dizon
フィリピン/2015/78分
ミンダナオ島、ザンボアンガのゴム農園などを転々としながら成長したドンドン。家族のこと、将来を思い悩む少年の言葉をカメラは拾いながら、村の生活を淡々と描く。

18 『ドロガ!』 Droga!
監督:ミコ・レベレザ Miko Revereza
アメリカ、フィリピン/2014/8分
アメリカ文化とタガログ語が混ざり合い、アメリカに住むフィリピン人のある存在証明。スーパー8フィルムに焼き付けられた監督の心の中を覗き込んでみる。

19 『ディスインテグレーション 93-96』 Disintegration 93-96
監督:ミコ・レベレザ Miko Revereza
アメリカ、フィリピン/2017/6分
監督の家族がロサンゼルスに移り住んだ90年代のホームムービーから滲む不安と郷愁、そして今。アメリカで「融合されない」存在が、映像となって突進する。

20 『翡翠之城(ひすいのしろ)』 City of Jade
監督:趙德胤(チャオ・ダーイン)
Midi Z
台湾、ミャンマー/2016/99分
ミャンマー北部、政府軍とカチン解放軍との断続する戦争のただ中で翡翠を採掘する兄と仲間たち。家族や兄との関係を語りながらカメラを向けていく。

21 『中国街の思い出』 In Memory of the Chinatown
監督:陳君典(チェン・ジュンディン)
Chen Chun-Tien
台湾/2016/29分
台南市、再開発で取り壊される住宅と商店街が同居する「中国城」。廃墟のような建物の呼吸とかつての住人の記憶が呼応する。

特別招待上映作品

『映画のない映画祭』 A Filmless Festival
監督:王我(ワン・ウォ) Wang Wo
中国/2015/80分
2014年8月、宋荘の北京インディペンデント映画祭が開催前日、当局によって閉鎖された。集まった監督や観客などが撮影した映像を集め、事の顛末を記録した。

『カット』 Cuts
監督:ハイルン・ニッサ Chairun Nissa
インドネシア/2016/70分
『空を飛びたい盲目の豚』の監督(エドウィン)とプロデューサーが、インドネシアで法律で義務づけられている検閲申請を行い、ベールに包まれた過程を記録する。

アジア千波万波特別企画:ロックスリーの館
1989年の「アジアの映画作家は発言する:アジアシンポジウム」に参加して以来、アジア・プログラムにも作品が登場し、山形映画祭とはなじみ深い、フィリピン出身アニメーター/パフォーマー/映像作家のロックスリー。今年製作された新作と共に、過去の作品も上映し、旧西村写真館ではドローイングなどの作品も展示。

山形国際ドキュメンタリー映画祭 2017
会期:10 月 5 日[木]〜12 日[木] 8 日間
会場:山形市中央公民館(アズ七日町)、山形市民会館、フォーラム山形、
山形美術館、とんがりビル KUGURU ほか
公式 HP: http://www.yidff.jp/home.html