「夏の娘たち~ひめごと~」のビジュアルにやまだないとさんがイラストを描きおろし
ピンク映画でデビュー、ライトノベルやコミック原作の青春映画で高く評価されたのち、ドキュメンタリー作品を連作するなど、ジャンルを横断した活動を展開する映画監督・堀禎一6年ぶりの劇映画は、原点に回帰した官能と禁忌の物語。
地方都市を舞台にして冴えをみせる堀が今回ロケ場所に選んだのは、信州は長野県上田市。静岡県の斜面集落の四季を追ったドキュメンタリー『天竜区』シリーズの方法論をフィクションに取り込み、ひんやりと清冽な夏の風の吹くなか、それぞれの手で運命を選ぼうとする女性たちの姿が描かれる。
家族、血縁、地域に根差したきわめて土着的な人間関係に着目した作劇は、それらが決してなくなったわけではなく、今も現代の日本で孤独を抱え、愛を求め、惑い、迷い、揺れ動く人びとに普遍の出来事であることを浮かび上がらせる。
藤田敏八の『妹』のようにひとりの女の帰還から血をめぐるタブーの物語が動きはじめ、エドワード・ヤンの『ヤンヤン 夏の想い出』を裏返したように進み、いや、葬式で始まり結婚式で終わる物語とはずばり小津安二郎の『秋日和』そのもの――。映画史への鋭敏な自覚にもとづく豊饒な映画的記憶を下敷きにしながら、それらといずれも似て非なる堀禎一独自の世界が高地の涼しい空気のなかに展開する。
ヒロインの直美役に舞台、映像で活躍する西山真来。『乃梨子の場合』(’15)につづく映画主演作で、リアルな女性の息吹を表現している。共演は舞台で活躍する鎌田英幸、『怒り』(’16)『まんが島』(’17)の個性派・松浦祐也。ほかに『ブルーレイン大阪』(’83)の志水季里子、『つぐない ゴールデン街の女』(’14)の速水今日子、『貌斬り』(’16)の和田みさ、『ローリング』(’15)の川瀬陽太、『濡れた欲情 特出し21人』(’74)の外波山文明、ビノシュ、櫻井拓也、小林節彦、下元史朗ら個性派俳優が脇を固めている。