この度、カンヌ国際映画祭クラシック部門(以下、カンヌクラシックス)に「残菊物語」(1939 年製作、英題:THE STORY OF THE LAST CHRYSANTHEMUM)の上映が決定致しました。
松竹は本年創業 120 年を迎えるにあたり、歌舞伎が題材となっており、溝口健二監督作品である本作をデジタル修復しました。
「残菊物語」は、溝口健二監督のワンシーン、ワンカットの技法の完成度を一気に高めた作品といわれています。脚色の依田義賢氏は本作について溝口健二監督は『映画映画していてはだめだと言った。(中略)「花柳はいくらでも持続した演技は出来るのですから」と言った。後でわかったのだが、舞台で演技をしてきた花柳さんを生かす道は舞台的に撮ることだと考えていたのである』と書いています。(キネマ旬報別冊日本映画シナリオ古典全集別巻より)

溝口健二監督はその後 3 作品が 3 年連続ヴェネチア国際映画祭で受賞するという快挙を成し遂げており(『西鶴一代女』1952 年国際賞、『雨月物語』1953 年銀獅子賞、『山椒大夫』1954 年銀獅子賞)世界的にも有名な監督の一人です。
修復は 4K スキャン、2K 修復、2KDCP を制作で行いました。可燃性フィルム時代に製作された作品であるため、オリジナルから数世代を経たネガ、マスターポジを 4K でスキャニング、傷の修復やユレを補正し、画調を整え修復を行いました。音声は、保存状況が原因のノイズをクリアにし、これ以上ないというデジタル修復版がここに完成しました。

カンヌ国際映画祭では、画・音ともに現在の最高技術によって蘇った『残菊物語』デジタル修復版のワールド・プレミア上映となります。
2004 年よりカンヌ国際映画祭の一部門として設立。文化遺産としての作品のショーケース、また過去の名作の再発見、修復された偉大な作品のお披露目などを目的としている。

日本映画では、2005 年「父ありき」(監督:小津安二郎)、2006 年「風の谷のナウシカ」(監督:宮崎駿)、’2008 年「ツィゴイネルワイゼン」(監督:鈴木清順)、2012 年「楢山節考」(監督:木下惠介)、2013 年「秋刀魚の味」(監督:小津安二郎)、2014 年「青春残酷物語」(監督:大島渚)、「東京オリンピック」(監督:市川崑)に続く選出となる。

【本年度の主なカンヌクラシックス選出作品】
日本からは「仁義なき戦い」(監督:深作欣二)、「乱」(監督:黒澤明)、<オーソン・ウェルズ監督生誕 100年>「市民ケーン」、「第三の男」ほか

カンヌ映画祭 HP
http://www.festival-cannes.fr/en/article/61328.html

執筆者

Yasuhiro Togawa