映像派監督たちに多大な影響を与え続けるケネス・アンガー
欲望を呪術的に映像化する方法を彼らに知らしめた
“ルーツ・イメージ”をスクリーンで体験せよ!

 実験映画作家にして、ハリウッドの光と闇を暴く『ハリウッド・バビロン』の著者としても知られるケネス・アンガー。魔術、バイオレンス、夢、ドラッグ、ゲイをテーマにした万華鏡のような映像美は、マーティン・スコセッシ、デヴィッド・リンチ、ミック・ジャガー、デニス・ホッパーら、ジャンルを越えたアーティストに大きな与え続けている。
 84歳になる今もなお勢力的に活動するアンガーの映像作品は近年、ファッション業界からも注目を集め、昨年はヴァレンティノのショーやミッソーニのキャンペーンに映像を提供した。また、今年11月13日から来年2月27日まで、ロサンゼルス現代美術館においてアンガーのレトロスペクティブ展“Kenneth Anger:ICONS”が開催中である。そのオープニング・イベントとして11月19日には、ケネス・アンガー(テルミン)とアーティストのブライアン・バトラー(ギター)によるパフォーマンス・ユニット “テクニカラー・スカル” のライヴも披露された。

 そんなケネス・アンガーの作品の集成『マジック・ランタン・サイクル』が、12月3日より公開となる。これは数十年にわたり幾度も改訂を重ね、1980年に最終完全版のフィルモグラフィとしてまとめられたもの。神や道化師、無骨なバイカーたちといった登場人物からなる9本の映像作品は、無声映画全盛期のハリウッド映画への憧憬と、現実の世界への疑い、居心地の悪さのようなものを重ねあわせ、夢の中の物語のようにロマンティックに仕上げられている。
 上映は通常プログラム以外に、川勝正幸、柳下毅一郎、滝本誠、Mari Mari、釣崎清隆、五所純子ほか10名のセレクトによるプログラム“あの人が選ぶケネス・アンガー”も決定している(詳細はこちら<リンク http://www.uplink.co.jp/kenneth/theater.php#theater>)。また、劇場では、ケネス・アンガーに魅せられたデザイナーやアーティスト6名(スケートシング、伊藤桂司、鈴木ヒラク、服部一成、河村康輔、いすたえこ)が、『マジック・ランタン・サイクル』をモチーフにビジュアルを考案したTシャツが発売される。

【プログラム詳細】
◆Aプログラム(計91分)
魔術的神秘家アレイスター・クロウリーに捧げられた『ルシファー・ライジング』、アナイス・ニン出演のサイケデリックムービー『快楽殿の創造』、ミック・ジャガーが音楽を担当した『我が悪魔の兄弟の呪文』など、アンガーのめくるめく悪魔的イメージサイド。

A1『ルシファー・ライジング』(1980年/カラー/29分)
A2『快楽殿の創造』(1953年/カラー/38分)
A3『我が悪魔の兄弟の呪文』(1969年/カラー/11分)
A4『人造の水』(1953年/カラー/13分)

◆Bプログラム(計69分)
魅惑的なイメージと音楽のコラージュがミュージック・ビデオの原型と言われるアンガーの最高傑作『スコピオ・ライジング』、男がただただ改造マシンを磨き上げる『K.K.K.』、古き良き20年代のモード『プース・モーメント』、ほろ苦く甘いファンタジー『ラビッツ・ムーン』、アンガーが17歳で監督した『花火』など、アンガーの憧れが詰まったフェティッシュ・サイド。

B1『スコピオ・ライジング』(1963年/カラー/29分)
B2『K.K.K. Kustom Kar Kommandos』(1965年/カラー/3分)
B3『プース・モーメント』(1949年/カラー/6分)
B4『ラビッツ・ムーン』1950年バージョン(1950年/カラー/16分)
B5『花火』(1947年/白黒/15分)

【ケネス・アンガー Profile】
1927年、米国生まれ。ハリウッドでサイレント映画の衣装担当として働いていた祖母の影響で、映画や芸術への興味を持ち始め、10歳頃から16ミリカメラで映画を撮り始める。高校卒業後に制作した『花火』が初公開作品。59年には、ハリウッドのゴシップを書籍にまとめ『ハリウッド・バビロン』と題してパリにて発行(アメリカでは75年発行)。80歳を過ぎた現在も映像製作を続けており、最近では幼少時代から好きだった銀色の飛行船をモチーフにした短編『Airship』(3分)が完成したばかり。

ケネス・アンガー『マジック・ランタン・サイクル』
12月3日(土)、渋谷アップリンク他、全国順次劇場公開
映画公式サイト: http://www.uplink.co.jp/kenneth/

執筆者

Yasuhiro Togawa