■“出産”を4組の夫婦の視点で捉える
18トリソミーという障害を抱えた我が子と生きる哲さんと直子さん。
我が子の誕生死を経験した雅さんと麻紀さん。
9年に及ぶ不妊治療の結果、2人だけの人生を受け入れた徹さんと陽子さん。
虐待や両親との不仲から、親になることに不安を抱える真和さんとまどかさん。
この4組の夫婦が、どう「出産」や「子育て」と向き合って来たのかを記録したのがドキュメンタリー『うまれる』だ。

■子供を可愛くない親はいない?
出産を4ヶ月後に控えた真和さんとまどかさん夫婦。明るく話す姿からは想像もつかないが、まどかさんは子供時代に母親から虐待を受けていたという。助産師の仕事を選んだ訳を、「出産の現場に立ち会うことで、女性が自然に子供に愛情を持って接する様子を見て安心したかったのかも」、と語る。「子供を可愛くない親なんていないよ」。誰もが言うことだが、出産をひかえ、自分は本当に子供を可愛がれるのか。そんな不安を抱えている。かつての母親の行動を、割り切ることが、理解することができるのか?段々大きくなるお腹を抱えて、真和さんとの生活や出産場所として選んだ助産院で、今感じていることを率直に話し合うことで答えに近づこうとしている。

■男性はどうやって父親になっていくのか
体の変化と共に母親としての自覚が芽生えて行く女性に対し、実感の持てない男性はおいてけぼりになりがちだという。真和さんもまさに父親未満の状態だ。両親との不仲のせいでまどかさんに出会うまでは、結婚願望や子供が欲しいといった感情はなかった。出産を数カ月後に控えても、子供は自分たちの副産物という気持ちは変わらない。そんな中、出産準備クラスで生後5ヶ月の赤ちゃんを抱くことになる。待っている間、笑顔が心なしか強ばっている真和さん。ぎこちない抱っこのせいで赤ちゃんも一触即発な顔だ。ドキドキの体験が終わった後「独特のいい匂いがしました。頭の上から」と興奮気味の笑顔を見せる。何かが変わってきた真和さん。出産までの生活でどんな変化を見せるのかも見所の一つだ。

■今を楽しむという選択
哲さんと直子さん夫婦の元に生まれた虎ちゃんは、18トリソミーという障害を持っている。18番目の染色体異常により心臓などの器官が胎内で十分に発達しないもので、生まれて来ることは稀だという。いつ呼吸が止まってもおかしくない状況。尽きない葛藤の中、気負いを捨てた哲さんと直子さんの姿が印象的だ。おなら1つでも、虎ちゃんに出来ることが1つ1つ増えていくことを共に楽しんでいる。我が子の今を残そうと、哲さんが撮った虎ちゃんの写真は約1万枚にも及ぶ。本編でも紹介される写真の数々は、虎ちゃんの活き活きとした表情を鮮やかに切り取っていて、見る人を笑顔にするに違いない。

■スクリーンに写らないドラマ
この映画が「出産」に至るまでは、たくさんの人の手で支えられてきた。HPによって募集した結果、1000人もの個人サポーターによる賛助金、9社の企業サポーターによる支援を得、3年に渡って撮影された150時間にも及ぶ記録は、約200人のボランティアの手でテープ起こしされた。ナレーションは、つるの剛士。企画・監督・撮影は豪田トモ。子供の頃から両親との関係に悩んできた豪田監督が、出演者候補のたくさんの家族と触れ合う中で、両親との関係を再構築できた。また、この作品のプロデューサーでもあるパートナーとの間に子供を授かるという、スクリーンに写らないドラマもあったという。

■この映画は、新しい命をめぐる大人の成長記でもある
みんな最初から「親」という肩書きを手にしている訳ではない。スクリーンに写し出されるのは、ぶつかって、迷って迷って、泣いて笑ってゆっくり親へと成長していく、終わりのない姿だ。
親と子の出会いが、「偶然」と「必然」どちらにしても、こんなに特別な一期一会はない。観た後に、自分の親とゆっくり話してみたくなる、そんなドキュメンタリーだ。
(Text:デューイ松田)

主題歌:「オメデトウfeat.KOHEI JAPAN」つるの剛士(PONY CANYON INC.)
ナレーション:つるの剛士
企画・監督・撮影:豪田トモ
製作:インディゴ・フィルムズ
配給:マジックアワー 
公式HP : http://www.umareru.jp

●公開情報
11月27日からテアトル梅田、
12月11日から京都シネマ、シネ・リーブル神戸 にて公開

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執筆者

Yasuhiro Togawa