大島渚13年振りの新作登場。

<INTRODUCTION>
「自分が世界の映画界のいちばん高いところにいるとは思わない。しかし、世界の
いちばん前に出た、最先端にきたと思った。」それまの日本映画、青春映画という
良識を打ち破った『青春残酷物語』(’60)を、大島渚ははこう表現する。以来、常
にセンセーショナルな話題とともに時代の最先端を走り続け、日本映画の枠を超越
した映像作家として世界の注目を集める大島渚13年振りの、過激にして優雅な新作
がついに登場。
幕末の京都。討幕へ、維新へと傾斜していく世の流れに逆らうかのように、幕府の
非常警察として抗争と殺戮に明け暮れる男たち−新選組。その血気盛んな男たちの
集団にある日、ひとりの美少年が入隊する。「局中法度」「軍中法度」という厳し
い戒律の下、鉄の結束を誇っていた新選組が、その少年の妖しいまでの美貌ゆえに
嫉妬と噂、憶測の渦に巻き込まれ、狂気を帯びた混乱に陥っていく…。
物語の鍵を握る魔性の少年をはじめとしてスタッフ、キャストの豪華さ、意外性は
大島渚ならではの独創性にあふれている。冷徹な目で隊を引き締めながらも不可解
な感情に揺れる新選組副長・土方歳三に、世界の映画界で監督・俳優として高く評
価されているビートたけし。物語の核となる美貌の少年・加納惣三郎には新人、松
田龍平。中学3年生の時に大島監督に見出された松田は、「眼が切れのながい単ま
ぶたで、凄いような色気がある」という惣三郎像に適う美しい目が印象的だ。惣三
郎をめぐる狂騒を一歩退いた目で見守る不才剣士・沖田総司に『TOKYO EYES』でカ
ンヌ映画祭でも注目を集めた武田真治。惣三郎“衆道”へと目覚めさせる田代彪蔵
に『白痴』『地雷を踏んだらサヨウナラ』と話題作の主演が続き、同世代からカリ
スマ的支持を集める浅野忠信。総長の近藤勇には『月はどっちに出ている』『マー
クスの山』などの気鋭の映画監督・崔洋一。土方の片腕として働く監察・山崎蒸役
にトミーズ雅、古参隊士・井上源三郎役に坂上二郎。このふたりのもっ絶妙な間は
物語に人情味とユーモアを醸し出す。惣三郎に心を奪われるもう一人の隊士・湯沢
藤次郎に田口トモロヲ。そして遊女・錦木太夫に神田うのが扮し、艶やかな印象を
残します。
殺気とエロティシズムの匂う男たちを活写するのは栗田豊通。ロバート・アルトマ
ン、アラン・ルドルフらと組み、ハリウッドの第一線で活躍する撮影監督である。
今回はフィノレムを脱色し、色を抑さえた深みのある映像に仕上げている。時にリ
アル、時に夢幻的なセットデザインは、数々の国際映画祭受賞作品を手掛けてきた
美術監督・西岡善信。綿密な時代考証と斬新な発想から生まれた衣装デザインは『
乱』でアカデミー賞を受賞、ピーター・グリーナウェイら世界のアーティストたち
から絶大な信頼を受けているワダエミ。黒を基調に、ナチスの隊服をイメージした
隊服は大島渚版「新選組」の象徴ともいえる。音楽は『ラストエンペラー』でアカ
デミー賞、『シェルタリング・スカイ』でゴールデングローブ賞を受賞した坂本龍
一。初めて映画音楽を手がけた『戦場のメリークリスマス』以来、二度目の大島作
品参加である。彼ら世界最高水準のスペシャリストたちで創りあげた映像は大鳥渚
監督をして「ヴィスコンティが羨ましがる」と言わしめた恍惚の美しさと圧倒的力
強さにあふれている。
原作は司馬遼太郎の「新選組血風録」所収の「前髪の惣三郎」と「三条蹟乱刃」。
物語のクライマックスに「菊花の契」(上田秋成「雨月物語」より)を加え、わずか
7年間の活躍で時代の渦の中に消えていった新選組の光芒を、大島渚ならではの物
語に昇華させている。
すでにヨーロッパ、アメリカなど30カ国以上での公開が決定。「すべての御法度を
破り続けて来た」という大島渚の“GOHATTO”を待ちわびている。

<STORY>
1865年・夏、京都西本願寺にある新撰組道場では、総長・近藤勇(崔洋一)、副長、
土方歳三(ビートたけし)ら幹部立ち会いのもと新隊士を選ぶ試合が行われていた。
志願者の相手をするのは、新撰組且きっての剣の使い手・沖田総司(武田真治)。そ
の中に、ひときわ目を惹く者がいた。鮮やかな白袴に身を包み、息を飲むような色
気を放つ美貌の青年・加納惣三郎(松田龍平)である。この日、群を抜いて腕の立つ
二人が入隊を許された。加納惣三郎と久留米藩脱藩の下級武士・田代彪蔵(浅野忠
信)であった。隊士たちの、寝起きする大部屋に掲げられた「局中法度」「軍中法
度」は、厳しい戒律で縛る以外には集団を統制する手段もモラルも持ち得ない新撰
組を象徴していた。それを見ながら田代は惣三郎に「きみはなぜ新撰組に入ったの
だ」と尋ねるが惣三郎はただ謎めいた笑みを浮かべるだけだった。田代は、この時
からすでに惣三郎の魅力に強く惹かれていく……。翌日、惣三郎は命じられた初仕
事にとりくむ。御法度を破った隊士の処刑であった。血しぶきひとつ浴びず見事に
首を切り落とした惣三郎を、近藤は「勇気がある」と関心するが、土方は勇気と違
う何かを感じ、かすかな違和感を抱く。
入隊してひと月もたたないうちに、惣三郎をめぐる噂が囁かれ始める。いわく「加
納はまだ女を知らない」「田代は加納に言い寄っているが加納は田代を避けてい
る」「しかし、前髪を落とそうともしない加納にそのけはたっぷりある」ある日、
土方は、惣三郎と田代に試合を命じる。腕は明らかに惣三郎がまさっているのに、
試合に圧されている。「こいつら、できたな」土方は確信する。その試合をもうひ
とり食い入るように見つめる男がいた。惣三脚に激しく想いを寄せる隊士、湯沢藤
次郎(田口トモロヲ)である。
秋。惣三郎は六番隊長・井上源三郎(坂上二郎)と顔見知りになる。若者が多い新撰
組の中で、四十歳過ぎで茫洋としたところのある井上は、新撰組結成時からの主要
メンバーでもあり、特異な存在だった。ある日、一つの事件が起こる。惣三郎が井
上に稽古をつけてもらうことになるが、剣術のからきし下手な井上への遠慮から不
様な稽古になってしまい、それをのぞいていた何者かに嘲笑されたのだ。「新選組
とはこの程度か…」
新撰組の体面を傷つけてしまったと、いう惣三郎の自責の念は重く深かった。その
心の揺れに乗じて、湯沢は彼を祇園へと連れ出す。惣三郎はそこで、湯沢とも衆道
の関係を結んでしまう。土方から事件の始末を命じられた惣三郎は、必死の探索の
末、それが池田屋事件の恨みを持つ肥後藩の浪士であることをつきとめる。その夜
惣三郎と井上は二人きりでアジトに乗りこむが、井上はけがを負い、惣三郎も傷つ
いてしまう。沖田の部隊に救われ、屯所へ戻る道すがら、田代は惣三郎にぴたりと
寄り添い名前を呼びつづけるのだった。その様子を湯沢は嫉妬に燃える目つきで見
つめていた。それからしばらくたったある雪の日、湯沢の惨殺死体が溌見される。
監察の山崎蒸(トミーズ雅)が調査にあたるが、犯人はわからずじまいだった。
春。隊に衆道がはぴこることを恐れた近藤は、惣三郎に女を教えるよう、土方を通
じて山崎に命じる。しつこく遊郭に誘う山崎が自分に気があると誤解した惣三郎は
はじめは逃げ回るのだが、徐々に山崎に好意を示すようになる。ともすると惣三郎
の魅力に惑わされそうになる自分を戒めて、山崎は島原の遊郭・輸違屋で錦木太夫
(神田うの)をあてがうが、山崎と夜を共にできると信じていた惣三郎は女を拒ん
で帰ってしまう。
次の夜、山崎が夜道で何者かに襲われる。襲撃に失敗した男は逃走し、後には小柄
が残されていた。その後の調査で、その小柄が田代の物であることが判明する。湯
沢殺しの犯人も田代であると判断した近藤は、惣三郎の手で始末するよう命じ、介
添人として土方と沖田を指名する。
斬殺の場となる河原で土方と沖田は二人を待っている。「なぜ討ち手が惣三郎なの
ですか」土方に問いかける沖田。そして、『雨月物語』の中の「菊花の契」という
信義を守ろうとして殉じた男と男の美しい話を語りはじめる。さらに沖田は、これ
は衆道の交わりを結んだ二人の男の物語だと言う。
沖田の話を聞いて、土方の目に幻影が浮かぶ。それは、惣三郎をめぐる新撰組の男
たちの関係を暗示する不思議な幻想であった……。

<STAFF>
監督:大島渚
製作:大谷信義
プロデュニサー:大島瑛子・中川滋弘・清水一夫
脚本:大島渚
原作:司馬遼木部「新選組血風録」(角川文庫・中公文庫)のうち「前髪の惣三郎」
   「三条磧乱刃」
撮影監督:栗田豊通
美術監督:西岡善信
衣装デザイン:ワダエミ
音楽:坂本龍一.
企画・製作:大島渚プロダクション
製作・配給:松竹

<CAST>
ビートたけし/松田龍平/武田真治/浅野忠信/的場浩司/トミーズ雅
伊武雄刀/神田うの/吉行和子/田ロトモロヲ/柱ざこば/崔洋一/坂上二郎